「国家は破綻する」―金融危機の800年 カーメン・M ラインハート, ケネス・S ロゴフ, Carmen M.Reinhart, Kenneth S.Rogoff, 村井章子
以前から注目してたが、まだ買っていない。
私がユーロ崩壊についていつも断定的で確定論的なことを言えるのは、やはりヨーロッパ人を30年近く見て来て、1982年からこちらで断続的に10年以上暮らし、当時の東ドイツやチェコ、ハンガリーに足繁く通い、ドイツ統一、ユーゴ崩壊、ユーロ導入を目の当たりにしていること、それらを身の回りのヨーロッパ人、様々な国籍の知人がそれぞれどのように語っているか、ヨーロッパの国ごとのメンタリティと、そこから来る政治と経済のギャップを体験してきたからだ。
自分が部外者だと物事を客観的に見られる(日本についてもヨーロッパから見ていると日本にいるより客観的に見ることができる)。
1989年から90年、ドイツ統一の時、回りのドイツ人が熱狂しているのを見ていて、私は「統一自体は良いことだが、このような急ピッチで統一を行うこと、政治はともかく経済や通貨の統合を政治が介入して行うことはうまくいかないだろう」と感じた。
壁の崩壊直後、マーケットで1:20で西ドイツマルク交換されていた東ドイツマルクをヘルムート・コールは東ドイツ国民一人あたり4000マルクまで1:1、それ以上は無制限に1:2で西マルクに交換した(それまで、つまり1989年10月までは東西のマルクの実勢価値は概ね1:3.5〜1:5でそれほど大きくは動かなかった。しかし東ドイツ政府は東西ドイツマルクの公定レートを1:1としていながら、西側から輸入が必要な商品の決済は自国通貨で行っており、このことが慢性的な実勢レートの低下を招いた)。
これは完全に政治的取引で、目先の事しかか考えない東ドイツ人の多くはこの措置を大歓迎し、CDUが東部ドイツで圧勝した。私が失望したのは私の友人の多くまでが、この金を将来のために貯蓄してうまく使わないで、いきなり西ドイツ製の高級車を買ったことだ。一部は換金した金だけでは足りなくてローンまで組んで。こうした人たちの多くが数年後に職を失い、ローンも破綻したことは言うまでもないし「同じドイツ人になった」途端に将来仕事がどうなるかわからない東の人に多額のローンを貸し付けた旧西ドイツの銀行の貸し手責任は大きい。
しかも壁崩壊直後にコールの公約を見越して金儲けをしようと、大量に東マルクを買っていた人などもいて、これらの事実上紙切れになってしまった紙幣を大量に引き受けたことがその後連邦政府の大きな債務になった。また事実上10倍の労働インフレ(通貨価値+労働賃金のギャップ)に見舞われた東独地区はその生産設備の老朽化や生産性の低さ、商品の質からドイツ統一と同時にまったく競争力を失い、ほぼすべての企業が西ドイツの企業に買収され、その過程で多くの失業者を出した。慢性的にはこの状態は現在まで尾を引いている。
ユーゴスラヴィアの崩壊も、豊かで生産性の高いクロアチア、スロヴェニア地域が人口の多く政治的に主導権を持っていたセルビアを支える構造になっていたことが直接の原因になった。宗教や歴史の問題が引き金ではない。
今回の経済危機で、ギリシャをはじめとする南欧の高債務国の救済は実際にはドイツやフランスなどの金融機関を救済するために行われていることは明らかだ。しかし、ドイツやオーストリアの新聞の論調、世論、多くの国民の論調はすでに「怠け者のギリシャ人やイタリア人を我々の税金で無制限に援助しているのは怪しからん!」となっているし、逆にギリシャでは「この経済危機でドイツはいかに儲けたか」という見出しが新聞の一面を飾っている(これらはイギリスなども同じ論調の新聞が多い)。
こうした過去30年間の現象は、政治が経済に直接介入することの危険性をあからさまに示している。つまり、それらは資本主義経済の原則に反しており、実際には旧社会主義国で行われてきた様な管理された経済に他ならない。いや、行き当たりばったりに行われている点でそれ以下の政策と言えるだろう。
以前から注目してたが、まだ買っていない。
私がユーロ崩壊についていつも断定的で確定論的なことを言えるのは、やはりヨーロッパ人を30年近く見て来て、1982年からこちらで断続的に10年以上暮らし、当時の東ドイツやチェコ、ハンガリーに足繁く通い、ドイツ統一、ユーゴ崩壊、ユーロ導入を目の当たりにしていること、それらを身の回りのヨーロッパ人、様々な国籍の知人がそれぞれどのように語っているか、ヨーロッパの国ごとのメンタリティと、そこから来る政治と経済のギャップを体験してきたからだ。
自分が部外者だと物事を客観的に見られる(日本についてもヨーロッパから見ていると日本にいるより客観的に見ることができる)。
1989年から90年、ドイツ統一の時、回りのドイツ人が熱狂しているのを見ていて、私は「統一自体は良いことだが、このような急ピッチで統一を行うこと、政治はともかく経済や通貨の統合を政治が介入して行うことはうまくいかないだろう」と感じた。
壁の崩壊直後、マーケットで1:20で西ドイツマルク交換されていた東ドイツマルクをヘルムート・コールは東ドイツ国民一人あたり4000マルクまで1:1、それ以上は無制限に1:2で西マルクに交換した(それまで、つまり1989年10月までは東西のマルクの実勢価値は概ね1:3.5〜1:5でそれほど大きくは動かなかった。しかし東ドイツ政府は東西ドイツマルクの公定レートを1:1としていながら、西側から輸入が必要な商品の決済は自国通貨で行っており、このことが慢性的な実勢レートの低下を招いた)。
これは完全に政治的取引で、目先の事しかか考えない東ドイツ人の多くはこの措置を大歓迎し、CDUが東部ドイツで圧勝した。私が失望したのは私の友人の多くまでが、この金を将来のために貯蓄してうまく使わないで、いきなり西ドイツ製の高級車を買ったことだ。一部は換金した金だけでは足りなくてローンまで組んで。こうした人たちの多くが数年後に職を失い、ローンも破綻したことは言うまでもないし「同じドイツ人になった」途端に将来仕事がどうなるかわからない東の人に多額のローンを貸し付けた旧西ドイツの銀行の貸し手責任は大きい。
しかも壁崩壊直後にコールの公約を見越して金儲けをしようと、大量に東マルクを買っていた人などもいて、これらの事実上紙切れになってしまった紙幣を大量に引き受けたことがその後連邦政府の大きな債務になった。また事実上10倍の労働インフレ(通貨価値+労働賃金のギャップ)に見舞われた東独地区はその生産設備の老朽化や生産性の低さ、商品の質からドイツ統一と同時にまったく競争力を失い、ほぼすべての企業が西ドイツの企業に買収され、その過程で多くの失業者を出した。慢性的にはこの状態は現在まで尾を引いている。
ユーゴスラヴィアの崩壊も、豊かで生産性の高いクロアチア、スロヴェニア地域が人口の多く政治的に主導権を持っていたセルビアを支える構造になっていたことが直接の原因になった。宗教や歴史の問題が引き金ではない。
今回の経済危機で、ギリシャをはじめとする南欧の高債務国の救済は実際にはドイツやフランスなどの金融機関を救済するために行われていることは明らかだ。しかし、ドイツやオーストリアの新聞の論調、世論、多くの国民の論調はすでに「怠け者のギリシャ人やイタリア人を我々の税金で無制限に援助しているのは怪しからん!」となっているし、逆にギリシャでは「この経済危機でドイツはいかに儲けたか」という見出しが新聞の一面を飾っている(これらはイギリスなども同じ論調の新聞が多い)。
こうした過去30年間の現象は、政治が経済に直接介入することの危険性をあからさまに示している。つまり、それらは資本主義経済の原則に反しており、実際には旧社会主義国で行われてきた様な管理された経済に他ならない。いや、行き当たりばったりに行われている点でそれ以下の政策と言えるだろう。
幸いなことに日本ではこうしたラディカルな経済への政治介入は戦後の預金封鎖の時くらいしか行われていない。
著者が第2章で言っている様に、日本の様な国内債務でもデフォルトは起こりえるだろうが、現在の日本の状況はまだヨーロッパの様には切羽詰まっていない。確かに歳入バランスは極めてよくないが、まだ解決法はあるように見受けられる。日本単独なら何とか乗り切れるくらいだ。
日本の国家財務状況が本当に悪化するまではまだ数年かかると思う。まず欧米で大手銀行の壊滅を伴う完全な金融恐慌が起こり、債券市場がクラッシュしてしまう。続けて株式市場のクラッシュ。その波を日本がもろにかぶり、輸出産業が停止してしまう、キャッシュフローがなくなり、国債の引き受け手がいなくなる、という順序で事は進むだろう。
私はリーマンショックの1年前、サブプライムがはじけた途端に「ヨーロッパの状況はもうだめだ」と思ったが、実際はECBや各国政府がその時すぐに銀行の自己資本率の引き上げなど根本的な対策を取らず、ユーロ導入によってただでさえ低調なのに「高成長」と偽って高金利政策によって世界中から資金を集めていた経済(ユーロ圏ではないがアイスランドが代表格)を続け、軟着陸を避けて引き延ばせば引き延ばすほどハードランディングになる破綻を、何と5年間も引き延ばしてしまった。
ECBもアクセル・ウェーバーのような思慮深い人は次々に去り、トリシェの様な蒙昧な老人がトップに居座り続けた。その間、銀行トップには法外な給与が支払われ続け(2007-8年のアッカーマン総裁の年俸は10億円超え!)ECBやEUの官僚には信じられない様な高額な報酬(平でも手取り月収5000ユーロ超え、その上様々なボーナス、高級官僚ならその10倍近く)免税特権、ファーストクラスのフライト、豪華な住宅などが与えられた。まるで、明治政府の高官のお手盛り給与のようだ。
これらが「格差」として各国の国民の我慢の限度を超えて目に付く様になってもう何年にもなる。
著者が第2章で言っている様に、日本の様な国内債務でもデフォルトは起こりえるだろうが、現在の日本の状況はまだヨーロッパの様には切羽詰まっていない。確かに歳入バランスは極めてよくないが、まだ解決法はあるように見受けられる。日本単独なら何とか乗り切れるくらいだ。
日本の国家財務状況が本当に悪化するまではまだ数年かかると思う。まず欧米で大手銀行の壊滅を伴う完全な金融恐慌が起こり、債券市場がクラッシュしてしまう。続けて株式市場のクラッシュ。その波を日本がもろにかぶり、輸出産業が停止してしまう、キャッシュフローがなくなり、国債の引き受け手がいなくなる、という順序で事は進むだろう。
私はリーマンショックの1年前、サブプライムがはじけた途端に「ヨーロッパの状況はもうだめだ」と思ったが、実際はECBや各国政府がその時すぐに銀行の自己資本率の引き上げなど根本的な対策を取らず、ユーロ導入によってただでさえ低調なのに「高成長」と偽って高金利政策によって世界中から資金を集めていた経済(ユーロ圏ではないがアイスランドが代表格)を続け、軟着陸を避けて引き延ばせば引き延ばすほどハードランディングになる破綻を、何と5年間も引き延ばしてしまった。
ECBもアクセル・ウェーバーのような思慮深い人は次々に去り、トリシェの様な蒙昧な老人がトップに居座り続けた。その間、銀行トップには法外な給与が支払われ続け(2007-8年のアッカーマン総裁の年俸は10億円超え!)ECBやEUの官僚には信じられない様な高額な報酬(平でも手取り月収5000ユーロ超え、その上様々なボーナス、高級官僚ならその10倍近く)免税特権、ファーストクラスのフライト、豪華な住宅などが与えられた。まるで、明治政府の高官のお手盛り給与のようだ。
これらが「格差」として各国の国民の我慢の限度を超えて目に付く様になってもう何年にもなる。