2005年12月1日木曜日

リヒャルト・シュトラウス サロメ

オペラ「サロメ」が他の作品に比べて圧倒的な集中力を持っているのは、もちろんオスカーワイルドの原作が優れていることとヘドヴィッヒ・ラッハマンのドイツ語訳が素晴らしいこと、そして1幕、1時間半という演奏時間に対してシュトラウスの作品の中でもかつて無いほどの分厚いオーケストレーションを施した音の洪水(こういう物はヴェルディでは決して聴けない)そしてそのプロポーションだろう。

この曲の中心をなすのは、アリアでもデュエットでもなく、ほぼ正確に終わりから3分の1の場所にあるオーケストラだけの間奏曲、有名な「サロメの踊り」(または7枚のヴェールの踊り)だ。こちらの演出ではサロメが纏っている7枚のヴェールを全て脱ぎ去ると全裸になってしまう物もあり(本来もそのような意味なのではないかと思われるが)良くオペラグラスを持ったおじさん達がかぶりつきに集まるが、ガッカリしたくなかったら目をつぶって音楽に集中した方がよい。

第1にこの音楽の官能性に勝るほどの裸体美を持った歌手はまずいないし、仮に裸が見られても、この音楽の美しさを損なわないほどの踊りはまず見られないからだ。

裸が見たいのならオペラじゃなくてストリップショーに行けばよい。

しかし音楽的な中心を過ぎても、ドラマの昂揚はとどまるところを知らない。踊りの褒美として預言者ヨハネの首を求めたサロメの前に、首切り役人の奴隷ナーマンによって地下牢から銀の皿に載ったヨハネの首が差し出されるところは、何回このオペラを見ても鳥肌が立つシーンだ。
そして、15分あまりに渡ってサロメのモノローグが続く。

~略~
Du wolltest mich nicht deinen Mund
küssen lassen, Jokanaan!
Wohl, ich werde ihn jetzt küssen!
Ich will mit meinen Zähnen
hineinbeissen,
wie man in eine reife Frucht
beissen mag.

お前は私に接吻させようとしなかった、ヨカナーン!
今からお前の口に接吻してやる!
私の歯で果物をかじるようにかじってやる!

~中略~
Ich lebe noch, aber du bist tot,
und dein Kopf, dein Kopf gehört mir!
Ich kann mit ihm tun, was ich will.
Ich kann ihn den Hunden vorwerfen
und den Vögeln der Luft.
Was die Hunde übrig lassen,
sollen die Vögel der Luft verzehren.
Ah! Jokanaan, Jokanaan,
du warst schön!

私はまだ生きている、でもお前は死んで、お前の首は今は私の物だ!
私はお前の首をどうすることもできる。お前の首を犬にくれてやることもできるのだ。犬が残したところは空飛ぶ鳥がついばむだろう!
ああヨカナーン、お前は美しかった!
~中略~

そして恍惚の中、サロメはヨカナーンの口に接吻する。

Ah! Ich habe deinen Mund geküsst,
Jokanaan. Ah! Ich habe ihn geküsst, deinen Mund,
es war ein bitterer Geschmack auf deinen Lippen.
Hat es nach Blut geschmeckt?
Nein? Doch es schmeckte vielleicht nach Liebe.
Sie sagen, dass die Liebe bitter schmecke.
Allein was tut's? Was tut's?
Ich habe deinen Mund geküsst, Jokanaan.
Ich habe ihn geküsst, deinen Mund.

ああ、お前の口に接吻したよ、ヨカナーン!
お前の口は苦い味がした。
血の味だったの?
いいえ、きっとあれは恋の味だったのよ。
恋は苦いものだって言うもの。
でも、それが何だって言うの?
私はお前の口に接吻したよヨカナーン。

この部分の音楽は恍惚が狂気となり、3度の複調性が解決する時に鋭いクラスターとなる。

そして怯えたヘロデ王の短い叫び「あの女を殺せ!」と共に兵隊達がユダヤの王女サロメを楯の下に叩き潰す。

「サロメ」は1905(明治38年)の初演。間もなく初演から100年を迎える。